[4]強相関複数軌道系(やっと本題です)

 

  単一軌道Hubbard模型=電荷自由度とスピン自由度のつぶしあい

  • --> 非磁性金属(Fermi液体、Luttinger液体...)
  • --> 反強磁性Heisenberg模型(VB,スピンの量子効果...)

    どうひねくっても、強い磁性は出てこない

 

遍歴電子磁性(伝導性+磁性)は、単一軌道の制限を外してはじめて可能


(4−1)分子内強相関とスピン分極

 

π電子系にホールを1個ドープした系の模型

VB法(スピン-電荷分離を形式的に記述可能)

          

 

MO法(スピン-電荷は必ず一致)

       

(ベンゼンを例にしたので軌道縮重がありますが、無視してください)

       

MO法に強相関=スピン-電荷分離の描像を持ち込むと

 

UHF-MO(このままではの固有関数でないことに注意)

--> スピン分極発生=↑軌道と↓軌道のエネルギー差

 

↑軌道と↓軌道の形も異なってくる       

これは分子内にSDWを立てることでもある

 

スピン分極の原因=分子内Coulomb反発(Exchange)

           

 

別のいい方: 不対電子による“磁場”で

一重項VB(下の軌道)が緩められた

 

スピン分極が大きい分子の形・・・トポロジー条件

     

 

 

こうして、分子内に“反強磁性”を発生させることが可能

複 数 軌 道 の 関 与 が 本 質 的

 

トポロジー的なスピン分極制御=分子磁性の常套手段

 

  • 分子自身のスピンを大きく(高スピン分子)
  • 分子間でスピンを揃える(--> 強磁性etc.)

 

Dynamic spin polarization(今ホットなテーマ)

      =電荷自由度とスピン自由度

ラジカルのイオン化によってスピンはどうなる?

 

スピン分極を使った分子間強磁性相互作用

           

 

このモデルを強相関Hubbardモデルに焼き直すと、

実はこれは、

  • 有機強磁性体β-p-NPNN
  • 田崎らによる平坦バンドHubbard強磁性
  • Mielkeのカゴメ格子平坦バンドHubbard強磁性

と同じトポロジーをもっている


(4−2)平坦バンド強磁性

次のモデルで、

1/6-filled(3つのうち一番下のバンドがhalf-filled)のとき、
基底状態は安定な強磁性である (Mielke and Tasaki, 1993)

     

一電子Hamiltonian

 

バンド計算から、

 

最初の2つは平坦バンド
--- なぜ平坦か・・・ 非 結 合 性 だから

 

平坦 --> ∞重に縮重 --> Hund則により強磁性

 

有効スピンHamiltonianで、
∝ 連結サイトのon-site

平坦バンドの生じる条件=“connectivity”= トポロジー条件

制限を緩める理論が発展中(half-filledからのズレ、弱い分散)

==> 金属強磁性へ

 

・非結合性は、相互作用がないから生じるのではない!

 

トポロジー条件: VBが描けないところに

スピンが余る(強相関的表現)

弱相関でもOK(バンド計算でわかる)

 

結局、分子磁性のスピン整列規則とほとんど等価

 

共 通 点 :

  • トポロジーの支配,
  • Hund則と縮重

新たにわかったこと:

  • バンド計算との関係
  • 厳密な意味での “connectivity”
  • 非結合性をもたらす第2近接

 

分子・結晶設計へ


(4−3) 近藤格子と二重交換相互作用

 

孤立平坦バンド模型は、伝導性にとってはやや非現実的
複数軌道強相関系としては
むしろ、近藤格子(例:π-相互作用系)がありえそう

 

近藤格子のVB描像

Periodic Anderson Hamiltonian

 

  • 第1項:πバンド
  • 第2項:準位
  • 第3項:軌道のon-site Coulomb
  • 第4項:π-混成

--> 摂動でs-d Hamiltonian

      

=−8

一種の- model

バンド構造

  • VBS:VB電子対は静止
  • RVB:VB電子対は動く
  • 近藤格子:VB電子対の一方は静止、他方は動く

 

一次元近藤格子は広い条件で強磁性基底状態をもつ

(低電子密度 or large

二重交換相互作用系=近藤格子で>0(Hund)の場合

こちらは、実際に室温で金属強磁性・巨大磁気抵抗
が出ている(Mn perovskite)


(4−4) 遍歴電子磁性(金属強磁性)の特徴

 

  1. 縦のスピン揺らぎ
      電荷自由度のため、サイトのスピン量子数が変化(方向だけでなく長さも)
      --> 見かけのCurie則の原因 (温度誘起の縦揺らぎ)
  2. スピン波以外に個別励起が起きる(Stoner励起)
  3. 磁性と伝導性に強い相関があり得る

 

まとめにかえて

 

強磁性(あるいは磁気秩序)は、いったんできてしまえば、
スピンの量子性という観点からは陳腐にみえるが、スピンを揃えるというこ
とに、量子力学の本質(位相の問題・電子相関など)が深〜く関わっている
のである。



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                                     田村 雅史
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