q-(BEDT-TTF)2I3の電子構造  


  q-(BEDT-TTF)2I3a-(BEDT-TTF)2I3と類似した結晶構造をもつが、常圧下でも極低温まで金属状態を保つ有機伝導体で、準二次元系に特徴的な角度依存磁気抵抗振動が明瞭に観測されることでも知られている。この物質のバンド構造やフェルミ面の形状については、過去に偏光赤外反射分光やド ハース−ファン アルフェン効果を使った研究により明らかにされてきた。 今年は角度依存磁気抵抗振動を良質試料を用いて行った。さらに測定領域を低温強磁場まで広げることにより、振動周期を実際のフェルミ波数に正確に帰属させることができた。また低磁場での磁気抵抗とその角度依存性を詳細に検討した結果、極めて断面積の小さな三次元的フェルミ面を新しく見つけた。この新しいフェルミ面は、これまで有機伝導体のバンド構造の説明に成功してきた強結合近似の枠組みではまったく予測されていなかったものである。その起源を明らかにすることで、有機伝導体の伝導バンド形成に新しい機構が追加される可能性がある。この目的で、引き続いて高圧下での磁気抵抗の測定をおこなった結果、この小さなフェルミ面の断面積が圧力に敏感で、4 kbarの加圧により20%も増加することがわかった。