a-(BEDT-TTF)2I3の低温電子状態

有機伝導体a-(BEDT-TTF)2I3は高温で金属、135K以下で絶縁体になる物質である。一方、非常に高い圧力(15kbar)下では、金属−絶縁体転移がおこらず、試料は低温まで金属のままでいる。こうして金属化したa-(BEDT-TTF)2I3は,低温でいろいろ興味深い性質を示す。
本年度は、低温の担体系が高い伝導度を持っていることを直接示すために、磁場を印加すると試料中のローレンツ力によって電流の分布が変化することを示す実験を行った。長さ2ミリメートル、幅0.8ミリメートルの平板状試料に18個の電極をつけて、各端子間の電位差を磁場の関数として測定するという難しい実験である。実験結果について等角写像を用いた数学的な解析を行って、試料中の電流分布、電場分布を示すことができた。
この結果、低温におけるこの物質の担体系は、極端に低い濃度と、高い移動度を持っていることが確実になった。